村民インタビュー
自伐型林業による
広葉樹施業を実現
夏井 辰徳さん
一般社団法人九戸山族-夏井蔵
岩手県九戸村出身
1964年生まれ
Q.林業について
教えてください
A.
我々がやっているのは、「自伐型林業」と呼ばれる自立・自営型の林業です。大型の作業機械を使い、ある区画の木を全部伐採する皆伐と違い、山林所有者や地域住民が自ら山に入り、適正な間伐を繰り返しながら健全な森を育てて、永続的に収入を得ていくやり方です。現在は、九戸村と久慈市山形町にかけて広がる約200haの広葉樹の山を手入れしています。
Q.自伐型林業に
取り組むきっかけは
A.
実家は代々山を所有していて、子どもの頃から山の仕事は手伝っていました。高校まで九戸で過ごし、約30年間、国内外で映画や音楽、絵画など表現の世界や社会活動に関わってきましたが、東日本大震災が引き金となって帰郷しました。健やかな山が健やかな田畑、町を作り、健やかな海が生まれます。山は思想、教育、芸術、経済、あらゆることに派生しています。戦後の林業政策で荒れた山を再生することが、日本に背骨を入れ直すことになるだろうと考えました。
Q.どんな活動をしていますか
A.
最初は1人で山に入ったのですが、3~4年経った頃から1人、2人と増え、今は8人で活動しています。同じ思想を持つ仲間ということで「九戸山族」と名付けました。独立採算制なので、個々の納得いくペースで作業しています。
Q.管理している山の状態は
A.
自伐型林業による天然広葉樹施業の実現は至難の業と言われますが、手入れを始めて3年ぐらいしてから、山が変わってきました。成功の証しとなるのが、カジカガエルの復活。タマゴダケもわんさか採れるようになりました。岩手の雑木山にはナラやクリ、カエデ、アオハダ、クロモジなど100種類以上の木があります。そこには我々が解明し得ない方程式があり、調和が保たれています。選木を誤ると山はすぐに壊れてしまうので、非常にスリリングですよ。
Q.広葉樹施業の醍醐味は
A.
木を伐るだけで終わらず、アイディアを駆使し、その1本から付加価値のある製品を開発するまで携われることです。多くの注文をいただいているミズナラのウイスキースティックは、炭窯の煙で燻し、スモーキーフレーバーを浸透させたもの。炭焼文化の物語が重なり、ヒット商品になりました。
Q.印象深い経験はありますか
A.
「山じまい」とか「山納め」といって、初雪が降る前に、その年の山仕事を終えます。1年かけて自分が手入れした山を見渡した時、「いいじゃん、やるじゃねえか」と思わず口元が緩み、それがいつの間にか爆笑になり、気がついたら泣きながら大爆笑しているんです。自然の圧倒的な巨大さを前に、自分は生かされていると感じ、喜びが生まれる。これはAwe(オウ)体験といって、驚くほど脳が活性化しているそうです。年を経るごとに、この感覚は強まっています。
Q.林業をやりたい人へ
ひとこと
A.
この地球で空気を吸い、水を飲んでいる限り、山に関わっていない人は一人もいません。山にお返ししていく意味で、「みんなで山族やろうぜ」と呼びかけたい。仕事は一から丁寧に教えます。個性を生かし、創造性を発揮してください。
Q.今後の活動展開は
A.
企業研修や子どもたちの教育活動を山の中で行うと、屋内でやるより成果が上がることが、ドイツでの研究によって証明されています。日本でも認知され始めているので、いろいろな活用を提案し、事業の幅を広げたいです。撮影スタジオとしてもニーズがあると思います。
Q.九戸のいいところは
A.
土地の魅力は、アイデンティティが確立されているかどうかで決まると思います。九戸を含む県北地方には、日本最古の民謡といわれる「ナニャトヤラ」が伝わります。面白おかしく、男女を連想させる内容の歌詞は、よくよく見ると反戦や反権力を訴えていて、先人たちは命がけで唄い、踊っていたと気づいたんです。それは、自らの行く末は自らで決めるという精神性を貫いた九戸政実にも通じるもので、九戸の人々の死生観にもつながっています。こんなかっこいいアイデンティティがある村がほかにあるだろうかと、私は思います。